歯周病予防の効果的な対策と予防法
歯周病とは?基本知識
歯周病は、歯と歯の間に付着した細菌のかたまり(プラーク)が原因で歯ぐきに炎症を起こす病気です。初期段階では歯肉炎として現れ、進行すると歯周炎へと悪化していきます。
歯周病は将来的に歯を失う原因の第1位となっている恐ろしい病気です。厚生労働省の調査によると、40〜44歳で約24%、55歳以降では約半数の方が歯周病が原因で歯を失っています。
健康な歯肉は薄いピンク色で引き締まっており、ブラッシングで出血することはありません。しかし歯肉炎になると赤く腫れ、ブラッシング時に出血するようになります。さらに進行すると歯周炎となり、歯を支える骨(歯槽骨)が溶け始めます。
歯周病の主な原因は以下の3つに分類できます。
- 細菌要因:プラーク(歯垢)の付着による細菌感染
- 環境要因:喫煙や食事などの生活習慣、噛み合わせの問題
- 生体要因:持病や遺伝による免疫機能の違い
特に注目すべきは、プラーク(歯垢)と呼ばれる生きた細菌のかたまりです。これは1mgの中に1億を超える細菌が棲みついており、粘着性があるためうがい程度では除去できません。

効果的な歯周病予防法5選
歯周病は一度進行すると完全に元の状態に戻すことが難しい病気です。そのため予防が何よりも重要です。
私が30年以上の歯科医師としての経験から、最も効果的だと考える歯周病予防法を5つご紹介します。これらを日常生活に取り入れることで、健康な歯ぐきを維持することができるでしょう。
1. 毎日の丁寧な歯みがき
歯周病予防の基本は、毎日の丁寧な歯みがきです。特に重要なのは、歯周ポケットと呼ばれる歯と歯ぐきの境目の溝をしっかり磨くことです。
歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に45度の角度であて、5mm程度に細かく動かしながら軽い力でみがきましょう。強くこすると歯ぐきを傷つけてしまうので注意が必要です。
歯ブラシが届きにくい部分は、歯間ブラシやフロスを使用することで効果的に清掃できます。歯間ブラシは歯と歯の間の汚れを除去するのに非常に効果的です。
2. 定期的な歯科受診で歯石除去
どんなに丁寧に歯みがきをしても、歯の表面に付着したプラークは時間が経つと唾液中のカルシウムなどの成分と結合して「歯石」になります。歯石は硬く、一度形成されるとご自身の歯みがきでは除去できません。
歯石は細菌の温床となり、歯周病を進行させる原因となります。そのため、定期的に歯科医院を受診し、プロフェッショナルケアを受けることが重要です。
具体的には、歯科医師や歯科衛生士による歯石除去(スケーリング)やPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)を3〜6ヶ月に一度受けることをお勧めします。エアフローという装置でのパウダークリーニングは歯を傷つけないのでブリッジや被せものが多く入っている患者様におすすめです。
私の臨床経験では、定期的にメンテナンスを受けている患者さまは歯周病の進行が抑えられ、健康な歯ぐきを維持できています。
3. 禁煙
喫煙は歯周病の最大のリスク因子の一つです。タバコに含まれるニコチンやタールは歯ぐきの血流を悪くし、免疫機能を低下させます。その結果、歯周病菌に対する抵抗力が弱まり、歯周病が進行しやすくなります。
また、喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病治療の効果も出にくいことが分かっています。禁煙することで歯周病のリスクを大幅に減らすことができます。
禁煙は簡単なことではありませんが、歯の健康だけでなく全身の健康にも良い影響を与えます。禁煙外来などの専門的なサポートを受けることも一つの選択肢です。

4. 免疫を高めるための生活習慣
歯周病は細菌感染症ですが、その進行には私たちの免疫力が大きく関わっています。免疫力を高めるためには、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠が重要です。
特に、ビタミンCは歯ぐきの健康維持に欠かせない栄養素です。柑橘類や緑黄色野菜などビタミンCを多く含む食品を積極的に摂取しましょう。
また、よく噛むことも大切です。硬い食べ物をしっかり噛むことで唾液の分泌が促進され、口腔内を清潔に保つ効果があります。
ストレスも免疫力を低下させる要因となります。適度なリラックスタイムを持ち、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
5. 全身の健康管理
歯周病は「沈黙の病気」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行することが多いのです。そして歯周病は口の中だけの問題ではなく、全身の健康とも密接に関連しています。
特に糖尿病との関連は強く、糖尿病患者さまは歯周病になりやすく、また歯周病があると糖尿病のコントロールも難しくなるという悪循環が生じます。
私は日々の診療で、歯周病と全身疾患の関連性を実感しています。歯周病を予防することは、心臓病や脳卒中、糖尿病などの生活習慣病予防にもつながるのです。
定期的な健康診断を受け、持病がある場合は適切に管理することも、間接的に歯周病予防につながります。
あなたの全身の健康は、お口の健康と切り離せないものなのです。
歯周病セルフチェック方法
歯周病は初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに進行していることが多いです。以下のチェックリストで、あなたの歯ぐきの状態を確認してみましょう。
- 歯みがき時に歯ぐきから出血する
- 歯ぐきが赤く腫れている
- 口臭が気になる
- 歯ぐきが下がって歯が長く見える
- 歯と歯の間に食べ物が詰まりやすい
- 歯がグラグラする
- 硬いものが噛みにくい
これらの症状が一つでもあれば、歯周病の可能性があります。特に出血は初期の歯肉炎の重要なサインです。早めに歯科医院を受診しましょう。
私は日々の診療で、「痛くないから大丈夫」と思って放置していたら、かなり進行した歯周病だったというケースをよく目にします。痛みがないからといって安心せず、定期的なチェックを受けることをお勧めします。
歯周病予防のための正しい歯みがき方法
歯周病予防の基本は、プラーク(歯垢)をしっかり除去することです。ここでは、歯科医師として私がお勧めする効果的な歯みがき方法をご紹介します。
歯ブラシの選び方
歯ブラシは、毛先が柔らかめのものを選びましょう。硬すぎる歯ブラシは歯ぐきを傷つけ、知覚過敏の原因になることがあります。
また、ヘッドの小さい歯ブラシの方が奥歯まで届きやすく、効果的に磨くことができます。電動歯ブラシも、使い方を正しく理解すれば効果的です。
歯ブラシは1ヶ月を目安に交換しましょう。毛先が開いてしまうと清掃効果が落ちてしまいます。
歯周ポケットを意識した磨き方
歯周病菌は歯周ポケット内に潜んでいます。そのため、歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット)を意識して磨くことが重要です。
歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に45度の角度であて、小刻みに振動させるように動かします。力を入れすぎず、優しく丁寧に磨くことがポイントです。
歯の表面だけでなく、内側や噛み合わせの面もしっかり磨きましょう。特に下の前歯の裏側は歯石がつきやすいので念入りに磨くことをお勧めします。
歯間部の清掃方法
歯ブラシだけでは、歯と歯の間(歯間部)の汚れを完全に除去することはできません。歯間部の清掃には、歯間ブラシやデンタルフロスが効果的です。
歯間ブラシは、歯と歯の間のスペースに合ったサイズを選びましょう。無理に太いものを使うと歯ぐきを傷つける恐れがあります。
デンタルフロスは、糸を指に巻き付け、歯と歯の間に優しく挿入し、歯の側面に沿って上下に動かします。
歯間部の清掃は、歯周病予防において非常に重要です。日本歯周病学会の調査によると、歯間清掃器具を使用することで、プラークの除去効果が大幅に高まることが分かっています。
歯周病予防に役立つ生活習慣
歯周病予防は歯みがきだけでなく、日々の生活習慣も大きく影響します。ここでは、歯周病予防に役立つ生活習慣についてご紹介します。
食生活の改善
砂糖を多く含む食品や飲料の摂取を控えましょう。砂糖は口腔内の細菌のエサとなり、プラークの形成を促進します。
また、硬い食べ物や繊維質の多い食品を積極的に摂ることで、唾液が出て自然な歯の清掃効果が期待できます。例えば、りんごやにんじんなどの生野菜は「自然の歯ブラシ」とも言われています。
私は患者さまに、キシリトール100%配合のガムを噛むことをお勧めしています。キシリトールには虫歯予防効果があり、唾液の分泌を促進して口腔内を清潔に保つ効果があります。
ストレス管理
ストレスは免疫機能を低下させ、歯周病のリスクを高めることが分かっています。適度な運動や趣味の時間を持つなど、ストレスを溜め込まない生活を心がけましょう。
私自身も日々の診療の合間には、深呼吸をしたり、短い時間でもリラックスする時間を作るようにしています。
睡眠の質の向上
質の良い睡眠は、免疫力を高め、体の回復を促進します。睡眠不足が続くと、歯周病を含むさまざまな疾患のリスクが高まります。
また、睡眠中は唾液の分泌量が減少するため、寝る前の歯みがきは特に丁寧に行いましょう。寝る前に歯を磨かずに就寝すると、細菌が一晩中活動し続け、歯周病のリスクが高まります。

歯周病予防のための専門的ケア
自宅でのセルフケアに加えて、歯科医院での専門的なケアを定期的に受けることが、歯周病予防には欠かせません。
定期検診の重要性
歯周病は初期段階では自覚症状がほとんどないため、定期的な歯科検診で早期発見することが重要です。3ヶ月に一度の検診をお勧めします。
検診では、歯周ポケットの深さを測定する検査や、レントゲン撮影による骨の状態確認などを行います。これにより、目に見えない部分の歯周病の進行状況を把握することができます。
私の臨床経験では、定期的に検診を受けている患者さまは、そうでない方に比べて明らかに歯周病の進行が抑えられています。
プロフェッショナルケア
歯科医院では、歯科医師や歯科衛生士による専門的なクリーニング(PMTC)を受けることができます。PMTCでは、自分では取り除けない歯石や着色を除去し、歯の表面を滑らかに磨き上げます。
また、歯周病の状態に応じて、歯周ポケット内の歯石を除去するSRP(スケーリング・ルートプレーニング)という治療を行うこともあります。
これらの専門的ケアは、自宅でのセルフケアと組み合わせることで、より効果的に歯周病を予防・管理することができます。
まとめ:歯周病予防で健康な歯を維持しよう
歯周病は一度進行すると完全に元の状態に戻すことは難しい病気です。そのため、予防が何よりも重要です。
本記事でご紹介した5つの予防法を実践することで、歯周病のリスクを大幅に減らすことができます。
- 毎日の丁寧な歯みがき:特に歯周ポケットを意識した磨き方を心がける。寝る前は特に丁寧に
- 定期的な歯科受診:3ヶ月に一度、プロによる歯石除去と口腔内のチェックを受ける
- 禁煙:喫煙は歯周病の最大のリスク因子
- 免疫を高める生活習慣:バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠
- 全身の健康管理:特に糖尿病などの生活習慣病の管理
歯周病予防は、単に歯を守るだけでなく、全身の健康維持にもつながります。近年の研究では、歯周病と心臓病、糖尿病、認知症などとの関連性が明らかになっています。
私は30年以上にわたる歯科医師としての経験から、「予防は最良の治療である」ということを実感しています。定期的な歯科検診と日々の適切なケアで、生涯にわたって健康な歯を維持しましょう。
歯周病予防に関するご質問やご相談がありましたら、ぜひ当院にお越しください。あなたのお口の健康を守るお手伝いをさせていただきます。
医療法人社団 緑幸会 理事長 鈴木聡
監修者情報
鈴木 聡(すずき さとし)先生
医療法人社団 緑幸会 桜新町グリーン歯科矯正歯科 理事長

略歴
広島大学歯学部卒業後、複数の歯科医院で研鑽を積み、
専門分野
矯正歯科・インプラント治療・審美歯科
特に、抜歯に頼らない「非抜歯矯正」や、目立ちにくい「マウスピース矯正(インビザライン)」に注力し、見た目と機能の両立を図る治療に力を入れている。
所属学会等
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日本矯正歯科学会 会員
-
日本口腔インプラント学会 会員
監修者からのひとこと
患者さまの「見た目」と「噛める機能」の両立を大切にし、年齢やライフスタイルに合わせた矯正治療を心がけています。大人の方でも安心して始められる治療法をご提案いたします。







