下あごの親知らずの抜歯(水平埋伏智歯の抜歯)術前の診査から抜糸まで
こんにちは。桜新町グリーン歯科・矯正歯科の歯科医師、古橋です。
今回のブログは下あごの親知らずの抜歯をどのように行うかのお話です。
下あごの横に生えてきてしまっている親知らずの抜歯(水平埋伏智歯の抜歯)
術前の診査
患者さまやレントゲン写真・CT画像から親知らずの状態を確認します。
麻酔
痛くないように麻酔をします。
通常の埋伏抜歯(歯ぐきから見えていない歯の抜歯)では、伝達麻酔を使わずに抜歯が可能ですが、深い位置にある埋伏歯は浸潤麻酔と併用して伝達麻酔も併用します。伝達麻酔では局所麻酔薬(約1.8ml)を1本程度使用します。
さらに粘膜下に歯冠が確認できれば歯槽頂から歯冠に沿わせて針を進め、歯根膜腔注射を行います。(歯ぐきの下に歯がある場所が確認できて、歯の大きさ長さと麻酔針の長さを見ながら歯の根っこがおおわれている歯根膜へ麻酔します)
あごの骨に埋まってしまっている親知らずの骨性の完全埋伏歯では骨を削合して歯根膜注射をさらに追加することもあります。
このように、できるだけ歯の神経に麻酔が行き届くように進めていきます。
切開・剥離(歯ぐきを切ってめくり、親知らずを見える状態にします)
下あごの埋伏智歯の抜歯では、歯頚部切開法あるいは三角弁切開法のいずれかなどが一般的に用いられます。
遠心切開(歯の奥側の部分の切開)は第二大臼歯遠心面歯肉溝中央部などから下顎枝外側に向けて可動部粘膜となる部分までの切開となります。
その際に、過度にほほ側を牽引した状態で切開すると、牽引を解除した際に切開線が舌側に位置していることがあるため、切開する前に、再度牽引を解除し、適切な切開線であるか確認が必要となります。
縦切開(縦の切開)は第二大臼歯の近心頬側隅角部などを起点として、可動粘膜まで切開を行います。
十分な牽引力を得るために指で頬側に粘膜を牽引し、テンションのある組織を鋭的に外科用のメスにて粘膜に垂直に切開します。最初は粘膜、次いで粘膜下組織、最後に骨膜の順で切開を行います。牽引力をかけずにあごの骨にメスを押し付けるように切開したとき、粘膜や骨膜に創面の挫滅を生じ、皮下気腫などの原因となってしまいます。
粘膜骨膜弁形成は、切開部から骨膜剥離子の先端を挿入し、骨に沿ってから下方から上方、前方から後方に骨膜を剥離していきます。歯肉溝付近は挫滅しやすいため、特に慎重に行う必要があります。
また、歯肉が親知らずの歯頚部に連続しているときは追加のメスで切開も行っていきます。
粘膜骨膜弁が形成出来たら引っ張る器具をかけて、視野を確保します。
また、親知らずの歯冠が一部でも確認出来れば縦切開は行わず、遠心切開のみでも術野の展開は可能です。
その際は、第二大臼歯の近心隅角まで十分な歯肉溝切開を行う必要があります。これを、エンベロープフラップなどといいます。
骨の削合・歯冠最大豊隆部の露出(骨を削って親知らずをだしていきます)
骨削合にはエアータービン・ストレートハンドピース・コントラアングルハンドピースなどの機材があります。
エアータービンは効率的に削合が可能です。
骨膜の挫滅などがあるときは皮下気腫の原因となることがあります。
病院によって骨削合する気合は異なることが多いみたいです。もちろん、術者によっても異なります。
第二大臼歯歯根付近の頬側の骨は可及的に残すことで第二大臼歯の動揺や冷水痛などの予防のため、慎重に骨削合していきます。
目安として、埋伏歯の歯冠最大豊隆部を超える程度まで骨を削合していきます。
歯冠分割・歯根分割(出てきた親知らずを歯冠と歯根それぞれに分けていきます)
水平埋伏智歯の抜歯では、第二大臼歯のアンダーカット(骨の最大隆起部よりも下方の陥凹した部分)に入った歯冠を摘出する必要があります。
そのため、埋伏歯の歯頚部付近で歯を分割します。
分割はエアータービンなどを使用します。智歯の最深部および舌側の歯質をわずかに残し、最後はヘーベルなどで歯を破折させることが一般的に多いです。
これは、深部での下顎管損傷と舌側での舌神経損傷の予防のためにします。深部の埋伏歯で、歯冠分割の際に分割部を直視して行うために、歯頚部での分割と合わせて頬舌側的に分割を行う方法があります。
歯冠部を一塊で除去しようとすると、分割部が直視しずらいので、頬舌的な分割を何度かに分けて行うことで、歯の削合部を確認できるためより安全に歯頚部分割が可能となります。
埋伏歯が深いときはタービンバーが上方からでは到達できません。
その時は、頬側にタービンヘッドを向けて頬側方向から歯を分割することで深部の歯の分割が可能となります。
分割した歯冠部はヘーベルを用いて取り出していきます。
また、第二大臼歯のアンダーカットが大きな症例では、削合した頬側皮質に向けて歯冠を取り出していきます。
へーベル(エレベーター)による歯根の脱臼
親知らずの歯根をグループを形成してヘーベルを使うと、前方に出してゆくことができます。
回転作用(かいてんさよう)
楔作用(くさびさよう)
てこ作用
これらを利用し、歯根の脱臼をします。楔作用は歯根膜に沿ってへーベルを進めて歯を脱臼させる方法でありますが、歯槽骨(しそうこつ)皮質骨の破壊があると行いにくくなります。まず楔作用を試みて、脱臼不可能なら先ほど形成したグループを利用してこの作用で抜歯をしていきます。
また、歯冠の分割を行わずに抜歯可能な埋伏歯の時は歯根底面にへーベルが入れば歯を回転させて脱臼を試みます。この操作は、下顎管(下あごに神経が通る管のこと)が近接するときには、神経損傷のリスクがあるため行いません。
さらに、複数根の場合には上記の方法で歯根摘出が困難なことがあります。
その際にはエアータービンやコントラアングルハンドピース、ストレートハンドピースを用いて歯根の分割が必要となってきます。
埋伏歯の根っこの分かれている部分(根分岐部)を目標にして歯を分割し、歯根をとっていきます。
肉芽組織の掻把(そうは)及び抜歯窩の確認
慢性炎症を繰り返した親知らずの歯冠周囲には肉芽組織が存在し、十分な掻把が必要です。
また、最初のCT画像などで骨の異常吸収や腫瘍や嚢胞(のうほう)を疑う所見があれば、病理組織検査が追加で必要になります。
抜歯窩(抜歯した歯が入っていた骨部分の穴になっているところ)内に歯の破片や肉芽の残存、下顎管の露出や損傷、異常出血がないかを確認します。
さらに、骨に鋭利な部分があれば骨やすりにて削合します。
縫合
縫合は絹糸もしくはナイロン糸にておこないます。
縦切開部の創のずれは創部の治癒不全や術後の疼痛の原因になってしまう可能性があるためしっかり縫合していきます。
ここでは粘膜に対して直角に刺入(しにゅう)し、骨膜を含めて縫合をします。
そして、遠心切開部は粘膜下組織を十分に含めて縫合を行います。
術後の経過観察
できる限り翌日に消毒に来ていただき、異常がないか確認します。
さらに、1週間後に抜糸および経過観察を行います。
参考文献:開業歯科医のための小外科手術『(編者)神部芳則先生(他)医歯薬出版』・標準口腔外科学『第4版(監修)野間弘康先生・瀬戸皖一先生(他)医学書院』